カラオケ
「誰でも一度だけ経験するのよっ!誘っ惑の青い薔薇〜!」
夏帆は満面の笑みで歌い切ると人懐っこい笑みを俺に向けた。
「どうよ!?」
「あー、良いんじゃね?」
「うわっ!超テキトー!マジありえないわー!」
「素人のカラオケに何を求めてんだお前。大した感想持てる方がおかしいだろ」
「そーいうことじゃないでしょカラオケって。ね、ハヤテ!?」
夏帆は俺の向かい側に座る青年に声をかける。
「それなー、カラオケの極意が分かってねーよお前」
「うるせーよ」
カラオケにそんな極意なんてない。
「てか曲のチョイス古過ぎだろーが」
「あー、私の百恵ちゃんをバカにしたわね」
そこにハヤテが割って入る。
「おい違うぞ。私たちの、だろ?」
「もうー、ハヤテったらー!」
「何なのお前ら?」
何がしたいの?
「ったく、俺は帰る」
「えー、もうちょっといなよー。ハヤテと2人きりになったら、わたしのわたしが放送事故になっちゃうじゃん!」
「どーいう意味だよ、、、」
また訳の分からんことを。
「てか、暇じゃねーんだよ、こっちは。早く結果出さねーと」
「小説だっけ?大変だな」
「そーでもないけど」
「じゃー、もうちょっと歌ってこーよ!」
「それとこれとは別」
俺は腰を上げた。
「お前らと違って、凡人は努力するしかねーんだよ」
「おい、どーいう意味だよ」
「知るか。デキル頭で考えろ」
カラオケ店を出た後、ため息をつき、空を仰ぐ。嫌に星が綺麗な夜だ。
「あー、変わってねーな、俺」
大人になろうと、人は変わらない。
自分は誰とも仲良くなんて出来ない。
1人で生きることしかできない。
「はー、、、帰るか」
おわり